NHK「技研公開」は家族連れやカップルで楽しめる内容になっているか


この記事は2013年7月に掲載されたものです。
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砧にあるNHK放送技術研究所の研究成果を年に一度公開する「技研公開」が、以前から気になっていた。広報物のビジュアルがかなり柔らかめだし、専門家だけでなく幅広い世代が訪れているようだ。確かに、実際の番組と結び付けて紹介すれば、難しい放送技術もわかりやすく伝えられるかも知れない。だが、本当に貴重な週末を過ごすのにふさわしいイベントなのか、家族サービスやデートのつもりで足を運んで後悔しないのか。「技研公開2013」で実際に確かめることにした。

NHK「技研公開2013」「技研公開2013」
(2013年5月30日~6月2日、NHK放送技術研究所)

私自身は学生時代ずっと放送部で、雑誌『放送技術』も読んでいた。正月の箱根駅伝を見ていても、駅伝そのものより、困難な山岳中継を支える技術スタッフの仕事に感動するタイプである。このため、放送技術はもちろん興味あるが、それを一般の人にわかりやすく展示出来るのか、自分の暮らしに密接した技術と感じてもらえるかは別の課題だと思う。単なる技術公開なら、専門家対象の発表会を別途開けばいいわけで、一般向けイベントにふさわしい工夫がされているかを確認したかった。


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NHK放送技術研究所は巨大な白亜のビルで、敷地内に広大な広場がある。旧施設の跡地だが、震災などで渋谷の放送センターが機能しなくなった場合、ここが代替機能を担うと聞いたことがあり、そのための予備スペースとして残しているのだろう。「技研公開2013」は地下の駐車スペースを展示ブースに充てていたが、ここも有事の際は中継車などが入り、そのまま放送基地になるのだろう。こうした災害対策関連の説明はなにもなかったが、震災への備えが求められている現在、この施設が担う防災面の役割をもっとアピールすべきではないか。

NHK放送技術研究所を世田谷通りから

1階ホール、スーパーハイビジョン(8Kテレビ)展示1 | 2
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1 NHK放送技術研究所を世田谷通りから
2 1階ホール、スーパーハイビジョン(8Kテレビ)展示
3 1階ホール、幅広い世代が訪れている
4 地下1階の駐車スペースを使った展示ブース

1階ホール、幅広い世代が訪れている

地下1階の駐車スペースを使った展示ブース

具体的な展示内容は特設サイトを参照していただくとして、短期間の公開のため、全体的に博物館的な楽しめる展示ではなく、見本市での展示ブースに近い印象を受けた。スーパーハイビジョンシアターのような映像上映はあるが、基盤の技術はどうしても説明中心になり、それを応用した番組制作の実例を見せないと、技術に興味がない人にとっては楽しめないだろう。放送センターの見学コースを期待してはダメである。

各ブースには研究員が張り付き、興味を持った人には詳しく説明してくれ、その点は出来る範囲で努力していると思うが、単なるパネル掲示だけのものも多く、ビジネスで訪れる展示会の雰囲気が拭えなかった。子供向けには、体験型展示が3ブースと工作体験イベントなどが用意されていたが、全体の規模からするとおまけレベルなので、次代を担う子供たちの好奇心を刺激する工夫がもっと欲しいと思った。

そんな中、博物館に近いレベルで気を吐いていたのがインテグラル立体テレビ。展示11「インテグラル立体テレビ」は凝った撮影ブースを特設し、展示21「多視点ロボットカメラシステム」では、スタッフが実際にバスケットボールのシュートシーンを実演し、スポーツ中継での応用をイメージさせた。他のブースとは展示にかける気迫が全く異なり、インテグラル立体テレビの研究チームを高く評価したい。

会場は想像以上に混雑しており、家族連れやカップルも少なくなかった。入場無料が魅力なのかも知れないが、交通の便がよいとは言えない立地でこれだけ人気なのは、NHKにそれなりに興味を抱いている証拠だと思う。NHKもこれに応え、高度な技術であっても、もっと噛み砕いた一般向けの展示を目指してほしい。これは番組制作と全く同じことだ。例えば技研とEテレのスタッフが展示方法を共同で考えるとか、組織の枠を超えた試みがあっていいと思う。