テレビCMの音量差がなくなり、むしろ番組のほうが大きく感じるようになったわけ


この記事は2013年3月に掲載されたものです。
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テレビを見ていて、以前はCMになると音量が大きくなったと感じることが多かったが、最近はほとんど感じなくなった。逆に、番組本編で同じ局でも音量が違いすぎることがある。これはなぜだろうか。

調べてみると、民放では2012年10月1日から、番組・CMとも新しい音声レベル基準「ラウドネス」を運用開始していた。

民放連「ラウドネス関連」のページ
日本広告業協会「テレビCM素材搬入基準『音声レベル運用規準』の適用について」

ラウドネス(loudness)は音の大きさという意味で、実際に耳にするレベルを表わす単位としては、お馴染みの「ホン」があるが、録音データのレベルを表わす単位として、新たに「LKFS」が定められた。民放連は「ラウド君」なるキャラクターをつくって、業界内で周知したようだが、一般の視聴者には関係ないことなので、知らなかった人も多いだろう。

VUメーター

VUメーター
“VU Meter” by Dafydd Thomas, on Flickr

それまでは、CMについては高級オーディオ機器でよく見るVUメーターで、「0VU」が上限という基準があったが、これは単なる電圧計で、人が感じる音の大小とは異なっていた。人の耳は低音より高音を大きく感じる周波数特性を持っているため、VUメーターが振れなくても大きいと感じるCMがあったわけだ。番組については、一般番組に対する音声レベルの基準自体が存在しなかった。

この問題は世界の放送関係者が感じていたようで、10年3月に国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)が「デジタルテレビ放送用番組の国際交換におけるラウドネス運用規準」を発表し、このとき決められた「-24LKFS」が番組の平均ラウドネス値になった。これを受け、日本では電波産業会(ARIB)「デジタルテレビ放送番組におけるラウドネス運用規定」を11年3月に策定、広告業界もそれに従った。NHKも13年4月からラウドネスを適用するとしており、地上派・BSについては足並みが揃う。

新しく基準を設けるには、測定アルゴリズムや機器の開発が必要で、このために日本ラウドネスメータ協議会(J-LMA)が設立され、「ラウドネスメータ」が開発された。ステレオWAVファイルのレベルを判定するソフトも無償ダウンロード出来る。

新しい基準でも音の大小はあるが、その平均値が「-24LKFS」に揃えられたため、相対的に聞きやすくなるわけだ。民放連のパンフレットにある図がわかりやすい。ただし、番組の場合は演出効果を狙って、平均値の下限とされる「-28LKFS」以下でも認められるため、むしろ番組のほうが音量にバラつきを感じるようになった。特にダイナミックレンジが広い(音量差の大きい)映画では、テレビでCMを入れながら見ると困惑してしまう。番組のほうで音量差を感じるのは、このためではないか。

ラウドネス導入の経緯については、フジテレビ技術局の松永英一エグゼクティブ・エンジニアが解説したROCK ON PROサイト「なぜ今ラウドネスメーターなのか?」がわかりやすい。