ワークライフバランスの旗手・佐々木常夫氏がいた東レでも、組織全体にその考えが定着することはなかった


この記事は2015年1月に掲載されたものです。
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東レの元取締役で、『ビッグツリー~自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて~』『そうか、君は課長になったのか。』『働く君に贈る25の言葉』などの著書で知られる佐々木常夫氏の講演を聴いた。自閉症の長男、肝臓病とうつ病の妻を抱え、看病のために必然的に定時退社するようになったタイムマネジメント術で、ワークライフバランスの旗手と言われる人物だ。

壮絶なエピソードを淡々と語りながら笑いに変えていく様は、それを体験した本人にしか出せない凄みがあり、徹底的に合理化された時間の使い方は非常に参考になった。佐々木氏の部署では、部下も仕事の進め方を客観的に分析され、定時で終わらせることを求められたという。これに対し、質疑応答で聴衆から「残業をなくす考え方は組織として(東レに)定着したのか」という質問が出た。佐々木氏は苦笑し、次のように答えた。

  • 東レ自体には全く定着しなかった。自分が異動になったとたん、その部署は残業が日常茶飯事の状態に戻った。
  • 自分がベストセラーを出すようになって、読者が東レをワークライフバランスの進んだ企業として見るようになり、それが結果的に〈外圧〉となって、東レも変わってきているのではないか。

つまり、佐々木氏が東レの現役時代にやったことは属人的な改革であり、内部から企業文化を変えるまでには至らなかったことを、はっきり認めていた。自分の部署のワークスタイルを変えるだけなら、やってやれないことはないが、それを企業全体に広げるのは非常に困難だということだ。

佐々木氏の講演だけを聴くと、東レ全体がタイムマネジメントに秀でた企業のような印象を受けるが、決してそうではなく、あくまで佐々木氏個人が大企業の中でどう立ち回ってきたかという物語なのだ。企業文化を変えるのは、もっと強い処方箋が必要なはずで、ここはきっちり線を引いて聴く必要があると思った。

佐々木氏を本音を引き出した質問者には「グッジョブ」と言いたい。

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