「初心に返る」「初心に帰る」はどちらが正しいのか。私は長年「初心に返る」を使用してきたが、ネットで検索すると「初心に帰る」が正しいと答えている人が多くて驚いた。そうではなく、元々は「初心に返る」が一般的で、最近「初心に帰る」が増えてきたのだと思う。
中には、原点回帰なので「帰る」だと書いている人もいる。
Yahoo!知恵袋「『初心にかえる』の『かえる』の漢字を教えてください…」
確かに「初心に帰る」は間違いではないが、新聞社ではどちらの表記も認めている。新聞記者らしき人が、こう答えている。
両方とも正しいと思います。わたしが職業柄、参考にしている「記者ハンドブック」では、「初心に返る」「初心に帰る」両方の表記が載っています。こういう場合、ひらがなで書くことが多いですね。実際、ある辞書では「初心にかえる」とひらがな表記されています。
「帰る」はおもに人が主体の場合、「返る」はおもに物事に使うのですが、「初心にかえる」はどちらとも言い切れない意味合いが強いからではないでしょうか?
私が用語の統一で迷ったときに長年頼りにしている『毎日新聞用語集 改訂・1992年版』(毎日新聞社、1992年)では、主体の説明は同じだが、「初心に帰る」しか載っていない。一方で、主体が人である「正気に返る」「我に返る」の表記が「返る」で、使い分けが不明である。現在はどちらの使用も認められているのだろう。
かえす・かえる
返[主として事物に]原点に返る、正気に返る、我に返る
帰[主として人に]初心に帰る
実際に毎日新聞サイトを検索すると、どちらの表記もあった。選挙でよく使われる慣用句なので、そうした記事ばかりになってしまったが、ご容赦願いたい(リンク先を見る場合は無料会員登録が必要)。
芦屋市長選で4選を果たした山中健氏(65)が当選から一夜から明けた27日、市役所に登庁し、職員が花束を渡して祝福した。その後、山中氏は記者会見を開き、「(4選は)歴代市長を超えるが、初心に返り、謙虚に一つ一つ市政を進めたい」と抱負を述べた。【大森治幸】
中曽根氏は記者団に「選挙戦に当たっては、安保法制など今の政治情勢からみて非常に厳しいと思っている。初出馬の時のように初心に帰って戦いたい。県民の声をよく聞きながら地方創生に頑張りたい」と述べた。【吉田勝】
私が「初心に返る」が一般的だと思う理由は、「初心に立ち返る」はあるが、「初心に立ち帰る」はあまり目にしないからだ。私が長年愛用している『新選国語辞典 第七版』(小学館、1994年)でも、「立ち返る」しか載っていない。
たちかえる【立(ち)返る】
かえる。立ちもどる。「初心に―」
毎日新聞も「立ち返る」はあるが、「立ち帰る」はなかった。
太田市職員時代、先輩に誘われ労働組合の役員を引き受けたのが人生の大きな転換点になった。「関心があったわけではないが、気づけばどっぷりつかって今に至る」。働く人や弱者、生活者に光をあてるのが政治の役割と考える。尊敬するのは、9月に死去した土井たか子元党首。憲法を守るという信念を貫徹する姿に感銘を受けた。「ぶれずに言うべきことははっきり言う姿勢を見習いたい」。初心に立ち返り、選挙戦を戦い抜く覚悟だ。【角田直哉】
また、「我に返る」を「我に帰る」と表記する人も少ないと思う。前述の『新選国語辞典 第七版』では、下記のように書かれている。
われ【我】
―に返る ①ぼんやりしていたのが、本心にかえる。②気をうしなっていたのが、正気づく。
①は「初心に返る」と同様に、人の心情の動きを示したものだ。「原点回帰」という熟語があるからといって、「初心に帰る」だけが正しいというのは乱暴すぎる。それを言うなら、前述の『毎日新聞用語集 改訂・1992年版』では「原点に返る」と書かれていた。どちらも正しく、どちらを使ってもいいのだ。
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