連載当時の原稿を再現した『日出処の天使』完全版が完結、全7巻購入プレゼントは7月末日締切


この記事は2012年4月に掲載されたものです。
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山岸涼子著『日出処の天使ひいづるところのてんし』完全版(メディアファクトリー)が全7巻で完結した。連載当時のカラー原稿、扉イラスト、予告カットなどを完全再現したもので、最終巻は続編に当たる「馬屋古女王うまやこのひめみこ」も収録された。私は角川書店の山岸涼子全集と白泉社文庫で保有しているが、完全版ということで購入した。この作品は、私のコミックスにおけるオールタイムベストワンである。

『LaLa』(白泉社)1980年4月号~1984年6月号に連載された少女マンガだが、性別・世代を超えて読み継がれるべき傑作だと思う。私自身は当時『LaLa』の存在は知っていたが、興味を持っていたのは成田美名子著『エイリアン通りストリート』(1980年12月号~1984年7月号連載)のほうで、『日出処の天使』を読んだのは連載が終了してからだ。男性が『LaLa』本誌を購入するのは当時不可能に近く(苦笑)、作品ごとにコミックスになってから紹介されるので、こうしたタイムラグが生まれるのだ。家に姉妹がいればもう少し違っていたはずで、実際に私がこうした作品を知ったのも、姉妹がいる友人経由によるものだ。いま思うと、私が大きな影響を受けた2作品が同時に誌面を飾っていたわけで、この時期が『LaLa』の黄金期と言われるのも当然だろう。

全7巻のオビに応募券が付いており、これを第7巻のオビの折り返し部分にある応募用紙に貼り、返信用切手90円分を同封して送ると、特製ポストカードセットが全員もらえる。応募用紙を切るとオビが挟めなくなるので、応募用紙はコピーでもよい。さらに抽選で500名に直筆サイン色紙が当たる。500枚サインするわけで、大盤振る舞いだ。これは応募するしかないだろう。締切は2012年7月末日(消印有効)。

完全版は11年11月から刊行されたが、奇しくもメディアファクトリーが同じ月にリクルートから角川グループホールディングスに買収されており、「馬屋古女王」を引き取った『ASUKA』の角川書店に戻ったことになる。『日出処の天使』という作品が、なにか力を持っているような気がしてならない。

いま改めて読み返すと、ボーイズラブ(BL)という言葉がなかった時代に、画期的な作品世界を構築したと思う。第7巻収録のロングインタビュー(『ダ・ヴィンチ』2012年1月号掲載に加筆・再構成)によれば、当初は編集部でも不評で、様子をうかがいながらの連載開始だったようだ。

「編集部には最初すごく反対されました。聖徳太子しょうとくたいしといえば、当時の一万円札のあの髭面しか頭に浮かばないから、いったい何を描くつもりなのかと。しかも初回の厩戸うまやどの登場の仕方があのような形ですから、もう大不評。あの頃はBLなんて誰も認めてないし、これは男同士の恋愛の話になりそうだと編集部中が警戒して、かろうじて初回のラストに巻物が浮き上がるシーンがあったので、もしや超能力の話になるのか?ということで我慢してもらえたようでしたね」

同インタビューによれば、少女マンガで初めてBLを描いた作品は、同じ山岸涼子氏の「ゲッシング・ゲーム」(『別冊セブンティーン』1972年11月号)だそうだ。BLという先入観がないからこそ、純粋な愛の物語として男性読者も含めて夢中にしたのだと思う。

背景をあまり描き込まず、人物中心の画で見せる漫画家だが、だからこそ人物の繊細な線は誰にも真似出来ない。そこに背景も含めて完成されたカラー扉が採録されているわけで、本当に貴重である。用紙や印刷にも配慮され、カラーインクの微妙な色彩が見事に再現されている。これまでのコミックスとは全く違う。『日出処の天使』を大切に思う人なら、ぜひ手元に置いておきたい。

各巻のオビの惹句は、『ダ・ヴィンチ』2012年1月号に掲載された各界からの応援メッセージを使っているが、第7巻の佐藤嗣麻子氏(映画監督)が書いている「映画化熱望!」は違和感を覚える。佐藤氏は以前から山岸氏と親交があり、映画化も本気で狙っているのだろうけれど、ここは作品自体を評価することに徹するべきではないか。ご自身の宣伝とも受け取られかねず、アマゾンのカスタマーレビューでも批判されている。

日出処の天子 〈完全版〉/第7巻 (MFコミックス)
山岸凉子
メディアファクトリー (2012-04-23)