プレモルが一番だと思っている人に、一度ハートランドビールを飲んでもらいたい


この記事は2012年7月に掲載されたものです。
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昔から麦芽100%、アロマホップ100%のビールが好きだ。ビールが苦手な家人も、このタイプだけはうまいと言う。

ここは歴史的にヱビスビール(1890年発売、1971年復活)を持つサッポロビールが強いが、北海道限定販売のサッポロクラシック(1985年発売)も忘れてはならない。私は北海道旅行で存在を知って以来、デパートの物産展などで見かけると購入している。通常商品でありながら、プレミアムビールに匹敵する味わいである。ヱビスだけでなく、サッポロクラシックを全国販売すればサッポロのシェアも上がるのではないかと思うが、生産量や地域限定というブランドの問題があるのだろう。

このタイプでいま人気なのが、サントリーのザ・プレミアム・モルツ(1989年「モルツ・スーパープレミアム」として発売、2003年名称変更)だ。モルツ(1986年発売)から麦芽100%にこだわってきたサントリーの集大成と言えるビールで、これはこれでうまい。そして、あれだけ宣伝すれば売れるのも当然だろう。

ハートランドビール

ハートランドビール(キリンビールサイトより)

だが、私も家人も世の中でいちばんうまいビールは別にあると思っている。それがキリンビール(麒麟麦酒)のハートランドビール(1986年発売)だ。マスコミでの宣伝は控え、樽と瓶でしか販売していない。缶がないためコンビニは扱わず、以前は高級スーパーにしか置いていなかった。近年は販路が少しずつ広がっているが、まだまだ少ない。キリンビールの文字もネックラベルに小さく書かれているだけで、一見しただけではキリンの製品だとわからない。大樹をエンボスにしたレイ吉村デザインのエメラルドグリーンのボトルを、輸入ビールと思い込んでいる人も多いのではないだろうか。

元々はキリンビール提供の料理番組「愛川欽也の探検レストラン」(テレビ朝日系、1984年10月18日~87年3月28日放送)の企画で醸造され、テレビ朝日直営のレストラン「たべたか樓」だけで販売されていたもので、そこから1986年オープンのキリンビール直営ビアホール「ハートランド・穴ぐら」「ハートランド・つた館」のハウスビールになり、店でのクチコミを通じてファンを獲得するという、現代のバズマーケティングと同じ手法が取られていた。だが、アサヒビールのアサヒスーパードライ(1987年発売)に対抗するため、キリンの上層部がハートランドビールの缶製品や全国展開を急ぎ、結果的に衰退していった。プレミアムビールが一般的ではない時代に、本物志向のハードランドビールを根付かせるには、性急すぎたのだ。

YouTubeには、88年に放送されたハートランド缶のCFがアップされている。これは貴重な映像である。缶の細部は、「麦酒缶蒐集」で見ることが出来る。

現在、ネット上でハートランドビールの変遷やエピソードを最も詳しく読めるのが、マーケティング会社「ドゥ・ハウス」のメールマガジンを再録した「ザ・マーケター」だ。後年、ハートランドビールのブランドマネジャーになった山田精二氏は、こう振り返っている。

単純に「缶発売」が原因ではありません。お客様に愛され、「買われる」ことを志向したブランドだったのに、「売るため」の施策に走ったからだと、今は思っています。「缶発売」や「テレビCMの放映」は原因の一部ですが、本質的な原因では無いのです。

ここから、ハートランドビールの〈奇跡〉が始まる。2011年9月29日に発表されたハートランドビール誕生25周年施策のリリースによると、「2010年まで18年連続対前年プラスを達成」したのだ。25周年というのは、キリンではキリンラガービールに次ぐロングセラー商品ということになる。目立たないだけに意外だ。疑問なのは、資料によって年のカウントが異なることで、前述の「ザ・マーケター」には「最も落ち込んだ93年」という記載があり、94年から前年プラスに転じたとすると、94年~10年では17年にしかならない。酒類には販売量のほかに、課税出荷量という指標があるので、課税出荷量だと93年からカウントするのだろうか。

キリンホールディングス「キリン歴史ミュージアム」には、「1995年以降2011年まで、18年連続で販売量が前年比プラス」とあり、これも95年~11年だと17年にしかならない。11年は東日本大震災の影響で、プレミアムビールの生産ラインが他製品に振り向けられたはずだが、それでも前年比プラスを達成したのだろうか。こういう細部にほころびがあると、せっかくの記録に水を差すことになる。キリンビールの担当者は、もっと正確な記述をしていただきたい。

ハートランドを、世の中にある飲食店様のうち、100のうち、90の店が採用していただくことはあり得ないし、そうなママ必要もないと思っています。ハートランドに共感したお店に確実にお取り扱いいただき、価値を広げていければうれしいです。よくwin-winの関係っていいますけど、happy-happyの関係にしたいのです。

山田氏はこう語っているが、これは04年当時のインタビューで、ザ・プレミアム・モルツやヱビスビールが台頭してきた現在、ハートランドがキリンを代表するプレミアムビールとして、もっと知られてもいいのではないかと思う。店で飲むハートランドの生は最高だ。特に和食でハートランドを置いていると、それだけで評価が上がる。

麦芽100%、アロマホップ100%が好きなら、ぜひ一度ハートランドビールを飲んでみてほしい。日本のピルスナースタイルの一つの頂点だと思う。

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