いま香川県の隠れ家懐石と言えば「永楽亭」で間違いない


この記事は2015年3月に掲載されたものです。
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瀬戸内海に面した香川県は魚介類だけでなく、肉も野菜もうまい。そんな食材に恵まれた土地なら、名店にも事欠かないと思われるかも知れないが、食材と店は別物である。威勢のよい居酒屋や宿泊を伴う旅館ならすぐ見つかるが、あとは接待メインの料亭だったり、仕出し料理店の濃い味付けだったり、せわしないコース料理だったりで、個人客が落ち着ける隠れ家懐石を探そうとすると、これが非常に苦労する。

坂出市の住宅街にある「美味心 秀峰」は、建物と料理は悪くないのだが、パートらしき仲居が料理の説明を満足に出来ず、和紙のテーブルマットをパウチしていたので興醒めしてしまった。大衆食堂でもあるまいし、なぜ使い捨てにしないのだろう。1枚数百円するものなら、数十円のものにして使い捨てにするか、座卓になにも敷かないほうがマシである。時期を置いて2回足を運んだが、2回目も同じだったので店を変えることにした。

そして探し出したのが、丸亀市の住宅街にひっそり佇む「永楽亭」。以前は丸亀駅の北側、丸亀港寄りの場所にあったが、現在は丸亀城の東側、香川労災病院の裏手に移転した。移転前はいかにも料亭という店構えだったが、現在は看板も出さず、予備知識がないと店ということさえわからない。完全な隠れ家である。県外から足を運ぶ人も少なくないらしい。

香川県丸亀市城東町1-8-9

丸亀市内の見物がてら歩く手もあるが、駅から最短ルートを歩いても1キロ以上あり、高齢者がいる場合はタクシーで行ったほうが無難。住宅街の路地にあるので、歩く場合は詳細な地図を持参すること。私は駅から歩いたが、丸亀市は商業施設が完全に郊外のショッピングモールに移っているようで、昔の商店街の賑わいを知っているだけに、閑散としたシャッター商店街が痛々しかった。丸亀城猪熊弦一郎現代美術館と見どころは多いのだから、ぜひ商店街を再生して賑わいを取り戻してほしい。

「永楽亭」

古民家を改装したような店内は、8畳の座敷、5席のカウンター、4畳半の茶室で、昼・夜ともに予約のみである。通常は座敷を使用するので貸切状態になる。1日1組だけということになり、贅沢この上ない。夫婦だけで切り盛りしているようで、定休日も特に決まっておらず、事前に相談すれば様々な対応が可能なように見受けられた。店主が東京の鰻屋で修業したとのことで、鰻が名物の一つになっており、公式サイトでも紹介されている。13,000円(税・サービス料別)のコースを予約し、最後の食事をうな重にしてもらった。

私が訪れたのは2014年9月で、冷製イチジク、鯛きずし、鱧豆腐と松茸の吸い物、カマスの雲丹焼きに海老と秋菜添え(栗、銀杏、衣かつぎ)、甘鯛と蓮根の蒸し銀あんかけ、椎茸とキクラゲとキュウリの和え物、そして最後にうな重、デザートにブドウをいただいた。うな重はしっかり一人前あり、男性の私でも多いと感じるほど。量を減らして、他の料理で調整してもらえばよかった。

店の雰囲気や料理は、北鎌倉の隠れ家懐石として紹介した北鎌倉茶寮「幻董庵」に近いものを感じた。一見客でも親切に接してくれ、クレジットカードも問題なく使えた。『ミシュランガイド』の中四国版は発行されていないが*1 、もしあるとすれば間違いなく星を獲得するだろう。ぜひ再訪し、今度はカウンターでご主人の技を堪能してみたい。

「永楽亭」は高松市に「restaurant noan」(レストラン野庵)というフレンチも手掛けている。こちらはカジュアルな雰囲気。

  1. 過去に『ミシュランガイド広島2013特別版』が発行されたことがある。 []