遅れてきた『この世界の片隅に』ファンがいまから出来ること


劇場アニメ『この世界の片隅に』は、私の映画オールタイムベストテンを書き換える素晴らしい作品だった。片渕須直監督のトークショー付き上映を含め、これまで7回観た。同じ作品をこれだけ映画館で観たのは初めてだ。映画史に残る名作だと思う。

私は遅れてきたファンで、もっと早く片渕監督やこうの史代氏の原作を知っていれば、クラウドファンディングに参加しただろう。エンドロールに自分の名前が載るは映画ファンの夢で、同じ思いの方は多いだろう。

遅れてきたファンがいまから出来ることはなにか。舞台となった呉の「聖地巡礼」は、住宅地だと地元の迷惑になるため、自粛が求められている。ファンの方が作成したGoogleマップを眺めて「バーチャル巡礼」したい。朝日新聞デジタルは、当時の呉や広島の街並みが見られる特集ページを設けた。

朝日新聞デジタル「写真特集:『この世界の片隅に』舞台を巡る」

片渕監督を海外上映に送り出す第2回クラウドファンディングも、支援が集まりすぎて逆に使い切れないとされている。それ以外でいま出来ることを挙げたい。

もちろん、本当にすべきことは、映画館で上演しているうちに何度でも映画館で観ることだ。どんな名作でも、映画館の大スクリーンで上演される期間は限られている。映画館で観られるあいだは出来るだけ映画館で観る――それが作品に対する最高の敬意の表わし方だと思う。

  1. 原作を購入する

    原作となったこうの史代著『この世界の片隅に』(双葉社)全3巻を読むと、映画では資金不足でカットされた娼妓のリンを巡る三角関係など、断片が残されているエピソードがよくわかる。周作に届ける帳面の裏表紙がなぜ破れているのか、エンドロールの紙芝居で大筋はわかるが、原作はさらに深い。

    字幕を見ないとわかりにく台詞も多いが、原作を読むと理解出来る。すずの兄が「お兄ちゃん」ではなく「鬼いちゃん」で統一されていることも、原作で気づくことだ。私も映画だけでは難しかった台詞が複数あった。

    映画では斬新な表現が随所に見られるが、原作もそれ以上の実験的な表現にあふれている。印象的なラストも原作どおりなのがわかる。原作は途中から画材が変わり、最後の数ページがカラーになって感動的だ。これはモノクロの雑誌掲載時には実現せず、コミックスで再現されたという。

    最終話が鉛筆で描いた絵から丸ペンに変わり、ラストは絵具で彩色されていることについて話が及んだところで、こうの先生が「あれは編集さんに、何の断りもなくカラーで描いたんですよ。だから雑誌掲載時はモノクロだったんです」と衝撃の発言。会場の参加者全員から驚きの声が漏れていました。

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  2. オリジナルサウンドトラックを購入する

    映画のサントラを購入したのはいつ以来だろうか。普段なら映画のDVDやブルーレイが出てから映像と一緒に楽しめばよいと思うのだが、『この世界の片隅に』は最後のエピソードで流れる主題歌「みぎてのうた」が素晴らしく、たまらず購入した。

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  3. 関連書籍を購入する

    映画館で販売しているパンフットが素晴らしい。テキストが多く、史実とすずの日々を対比させた年表、作品と現在の風景を比較出来るロケ地マップ、クラウドファンディング参加者に送られた4通のハガキなど、貴重な資料満載だ。さらにクラウドファンディングまで含めてエンドロールを全部収録している。特殊な用紙と判型で増刷には時間がかかるようで、映画館では何度も品切れを起こしているが、その都度増刷しているのでぜひ入手してほしい。

    こうの史代氏の他作品では、『夕凪の街 桜の国』(双葉社)が圧巻。昭和30年の広島を舞台にした『夕凪の街』、現代を描いた『桜の国』。広島の原爆にまつわる連作で、明るい表紙とは全く異なる衝撃の展開だ。すずの妹・すみのその後を連想させる内容で、胸に迫る。『長い道』(双葉社)は現代の夫婦を描いたハートフルな作品で、『この世界の片隅に』に通じる設定や表現が随所に見られる。すずファンにオススメ。。

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    関連書籍では、『劇場アニメ公式ガイドブック』(双葉社)がパンフレットをさらに詳しくした内容。『公式アートブック』(宝島社)が映画だけでなく原作も深く考察した内容。こうの史代作品、関連図書とも人気で品薄が続いているが、重版を続けているので、品切れでも高額な転売業者から購入せずに待ったほうがよい。

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  4. 過去のコラム・関連イベントを追体験する

    『この世界の片隅に』制作準備ポスター

    『この世界の片隅に』は企画スタートから6年をかけて実現したが、制作過程を積極的に公開し、様々なイベントを実施することで関心を広げていった。

    まず、片渕監督のコラムが12年から「WEBアニメスタイル」、15年から制作会社MAPPAのサイトに移転して連載を続けた。ここから生まれたイベント「ここまで調べた『この世界の片隅に』」も多数開催されている。「WEBアニメスタイル」は、初期のスタジオジブリ公式サイトにあった時代はよく読んでいたのに、その後遠ざかってしまった。自分のコミックスやアニメに対するアンテナが錆びついていると思う。おのれの不明を恥じたい。

    WEBアニメスタイル/片渕須直「1300日の記録」

    MAPPAサイト/片渕須直監督コラム『すずさんの日々と共に』

    作品に登場する料理を確認する目的で企画されたイベント「すずさんの食卓」も、参加者の方の詳細リポートが読める。

    わたしのちいさなたからもの「すずさんの食卓」

    わたしのちいさなたからもの「麦、青める日々~すずさんの食卓2~」

    わたしのちいさなたからもの「いつも、この日は晴れる~すずさんの食卓3~」

    イベントは地域での開催も多数あり、検索すればネット上で様々な記録が残っている。公開1年前のトークショーも追体験出来る。

    作品関連の展覧会も複数開催されている。特に規模が大きいのが、16年7月~11月に呉市立美術館で開催された「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」。舞台となった呉での開催で、公開直前だったアニメ素材も多数展示されている。出品目録や関連イベントの報告が読めるほか、この美術展向けにオリジナルグッズも多数つくられた。オリジナルフレーム切手も発売された。

    呉市立美術館「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展
    (2016年7月23日~11月3日、呉市立美術館)

    グッズや複製動画は「ササユリカフェ」(東京・西荻窪)で16年10月~11月に開催された展示会でも見ることが出来た。こんな素敵なカフェがあるのだな、といまさらながら知った次第。片渕監督トークショーでサイン入りトートバッグを持参した人がいて、目を奪われてしまった。

    『この世界の片隅に』公式サイト/イベント情報「『この世界の片隅に』ができるまで ~『マイマイ新子と千年の魔法』からの軌跡~ in ササユリカフェ レポート」

    16年5月に旧日本銀行広島支店で第16回広島国際アニメーションフェスティバル100日前イベントとして開催された「アニメーションで蘇る~この世界の片隅に~広島展」は、Twitterのモーメントでまとめられている。

  5. 公式サイトの前身を見る

    公式サイト(http://konosekai.jp/)は、15年3月に「制作支援メンバーズサイト」としてオープンし、15年8月から映画公式サイトとして特報が掲載された。「Internet Archive」で当時のサイトを見ることが出来る。

    「この世界の片隅に」制作支援メンバーズサイト(2015年3月8日時点)(Internet Archive「Wayback Machine」より)

    『この世界の片隅に』公式サイト(2015年8月1日時点)(Internet Archive「Wayback Machine」より)

  6. 関連グッズを購入する

    今回最も魅力的だったのが、16年3月に最初に発売された前売券(ムビチケカード)の特典「すずさんパラパラ動画」だと思う。「Anime Japan 2016」会場で販売されたものだが、通販でも買えた時期があった。遅れてきたファンは悔しがるしかないが、入手された方のブログで振り返ろう。

    どっと屋Mの續・鼓腹撃壌「すずさんに会いたくて」

    キャンペーン情報|映画前売券のことならメイジャー/映画前売券情報「特典付『この世界の片隅に』ムビチケカードを発売!!」

    宣伝協力しているLINEのスタンプにもやられた。私はLINEはやらないが、これだけは欲しい。全編録り下ろしのボイスがたまらない。

    LINE STORE/公式スタンプ「この世界の片隅に すずさんボイススタンプ」

    劇場グッズ以外のコラボグッズでは、呉の蔵元「三宅本店」の日本酒「千福」のオリジナルラベル、万年筆好きとしてセーラー万年筆の「ボトルインク ジェントル」オリジナルパッケージが気に入った。

    「千福」は直営ネットショップ「三宅屋商店」で通販されているほか、広島ブランドショップ「TAU」(東京・銀座)2Fの「広島酒工房 翠」でも販売している。品切れになることもあるが、断続的に入荷しており、Twitterで検索してから行くとよい。イラスト版のロケ地MAP第2弾も無料配布している。私は3回通って入手出来た。

    朝日新聞デジタル「『この世界の片隅に』監督らロケ地マップ作製 無料配布」

    セーラー万年筆は呉が創業の地であるだけでなく、片渕監督の父親が社員だった。そうした深い縁もあり、エピソードが詰まった対談が公式サイトに掲載されている。

    セーラー万年筆公式ウェブサイト「片渕須直監督×インクブレンダー・石丸治 対談インタビュー」

    「ボトルインク ジェントル」は製造ロットが400個と限られていたため、残念ながら入手出来なかったが、万年筆好きならお馴染みのトミケイ氏が隅々まで紹介されている。こちらもバーチャル体験したい。

    秋田萬年筆倶楽部&とみや文具店「セーラー ボトルインク『ジェントルインク この世界の片隅にバージョン』」

  7. 海外版予告編でパイロットフィルムに触れる

    海外版予告編では、本編に使われていないパイロットフィルムも一部使われている。クラウドファンディングの資金で制作されたパイロットフィルムに触れることが出来る。

  8. テレビ情報番組

    公開前のテレビ情報番組では、16年10月19日放送のNHK「おはよう日本」、10月20日放送のRCC(中国放送)「イマなまっ!」が大きく取り上げた。後者は広島でのん氏と片渕監督が生出演している。本日(1/16)現在、どちらもYouTubeで見られる。


(2017年1月29日追記)

16年10月に発売された片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』ブルーレイには、特典映像として『この世界の片隅に』のパイロットフィルム、特報、クラウドファンディング支援者を対象にした「制作支援メンバーミーティング」で上映された冒頭エピソード「冬の記憶」(音声なし・字幕)が収録されている。

パイロットフィルムは「悲しくてやりきれない」フルコーラスに合わせて台詞・効果音なしの映像が流れるが、作品全体からまんべんなくシーンが集められており、この段階で絵コンテが完璧に出来ていたことがわかる。この完成度を見て出資企業が集まったのも理解出来る。

もちろん、『マイマイ新子と千年の魔法』も感動的だ。これを観て驚愕したジェンコの真木太郎氏がプロデューサーを引き受けたというエピソードもうなずける。

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(2017年2月3日追記)

呉で海上自衛隊の制服・グッズを製作・販売している「制服のフジ」が、地元でしか買えない中元本店の「すずさんらむね2本セット」を1月7日から通販している。希望すれば、第1弾の「広島・呉ロケーションマップ」(イラスト版の前バージョン)も1部もらえる。

ラベルの一枚はよく使われるスケッチのバストアップだが、もう一枚が豆腐屋に並ぶシーンで、夏らしくてラムネにぴったりだと思う。

『この世界の片隅に』すずさんらむね2本セット

『この世界の片隅に』すずさんらむね2本セット(制服のフジWEBショップより)



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