歴史を重ねてきた企業には、生活者の記憶に刻み込まれた思い出がある。その商品を使った経験がなくても、店頭や広告を通じて同時代を共に生きてきた感覚がある。これは企業にとって最高の財産だし、それがブランディングではないかと思う。ネット時代ならではの全く新しい手法で訴求するのもいいが、その感覚を再生させるのも大きな効果があるのではないか。
積水ハウスには「セキスイハウスの歌」(作詞/羽柴秀彦、作曲/小林亜星)という、日本人なら誰もが知っているCMソングがある。スリーグレイセスの歌で1970年から使われ、ほぼすべてのCMに使われるためサウンドロゴに等しい。アラフィフ世代なら、70年10月~71年2月に放送されたクイズ番組「あなたは名探偵」(TBS系・水曜20時)で記憶に刻み込まれたのではないだろうか。積水ハウス一社提供だったため、このCMソングがガンガンに流れていた。小学6年生ながらレギュラー回答者だった神津カンナ氏がやたら正解し、この子はどんな天才になるのだろうと当時思っていた。
積水ハウスが創業50年を迎えた2010年、この曲に新しい歌詞が付けられ、「積水ハウスの歌」(作詞/一倉宏)が誕生した。歌詞は村上ゆきが歌う「50周年バージョン」(英語バージョン「LOVE IN THE HOUSE」あり)のほか、11年からはアルケミストが歌う「ぼくらの街バージョン」も加わった。
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「50周年バージョン」は、
季節の 描く道 胸に灯る 明かり
「ぼくらの街バージョン」は、
都会の空でも ふるさとだろ
のフレーズがぐっと来る。CFの映像と重ねて見ると感動が倍加される。
12年4月5日からは、「50周年バージョン」のデュエットバージョン(村上ゆき&曽我部恵一)が企業CM「積水ハウスの歌 2012篇」としてオンエアされているが、この映像が素晴らしい。家路に着くサラリーマン、OLの姿がカットバックされ、JR逗子駅前で待ち合わせる夫婦(と、逗子フィルムコミッションが紹介)の表情が絶妙である。街を行くOL、車窓を眺めるサラリーマンの笑顔もいい。「2011篇」の主人を待つ犬も印象的だったが、私はこちらが好み。家路を描くだけで、これだけのドラマになるのだと思う。15秒CMだと夫婦しか映らないため、「リア充」の象徴のような映像になってネット上ではやっかみも少なくないが、この60秒CMをぜひ見てほしい。
「あなたは名探偵」は、殺人事件が描かれる前半のドラマ部分が暗いトーンだったため、小学生だった視聴者の中には「セキスイハウスの歌」がトラウマになっている人も多いようだ。このイメージがあるため、ブログ「さーあっさ ひっとりーで おっかたーづけー♪」のように、積水ハウスでは家を建てないと明言している人もいた。このことを書いたブログ「安楽椅子と酒とアルビと」には、同世代の方から多数のコメントが集まっている。そうした長年の潜在意識を払拭する効果もあるのではないか。
いろいろな感想があるだろうが、私は新しい「積水ハウスの歌」が企業の財産であるCMソングに新しい息吹をもたらし、世代を超えた共感を呼ぶのに成功したと思う。ハウスメーカーなのでターゲットは限られると思うが、若い世代の潜在意識にも刷り込まれ、新しいブランドイメージの形成に貢献するだろう。
この60秒CM、ぜひ手元に保存しておきたいが、ブラウザのキャッシュに残らないため、積水ハウスのサイトから落とすにはテクニックが必要だ。現時点でYouTubeにもないため、保存するにはStreamTransportを使うといいだろう。