需要の減った『東急電車時刻表』の代わりに、「震災時安全ハンドブック」を無料配布した東急電鉄の賢明な判断


この記事は2012年8月に掲載されたものです。
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東急電鉄が6月21日から無料配布した「震災時安全ハンドブック」を、家人が持っていた。そういうものを配っているのは記憶にあったが、駅のラックにいつも置いている薄っぺらなリーフレットだと思い込んでいた。手に取って驚愕した。

東急電鉄「震災時安全ハンドブック」

東急電鉄「震災時安全ハンドブック」(東急電鉄サイト「ニュースリリース」より)

B5判縦1/2変形、全88ページ。前後11ページは東急電鉄自身の地震対策などが紹介されているが、それに挟まれた77ページは、昭文社による東急線沿線の一時避難・帰宅支援マップになっている。昭文社が2005年に発行して大ヒットした『災害時帰宅支援マップ 首都圏版』から、東急線沿線部分を抜粋した内容だ。

昭文社版は首都圏全域を網羅するため、地図の縮尺が都心をはずれると3万分の1になるが、東急版はすべて1万5千分の1で見やすい。帰宅ルートも、昭文社版は横浜へは第一京浜・第二京浜しか収録されていないが、東急版はちゃんと東横線沿いの綱島街道を収録している。田園都市線も昭文社版は長津田付近までだが、東急版は終点の中央林間まで収録している。東急沿線の住民にとっては、こちらのほうが頼りになるだろう。

昭文社版が800円(税別)するのに、東急版が無料というのもすごい。これで人気が出ないわけがなく、初回発行15万部は初日に9万部がなくなり、7月9日に20万部を追加発行し、合計35万部が出たという。今回は駅だけでなく、沿線の東急ストア60店舗でも配布したそうで、地図上で店舗位置をロゴでアピールし、備蓄食料の購入先として薦めている。さりげない宣伝で、これなら嫌味にならない。

『東急電車時刻表』2007年4月5日ダイヤ改正号

『東急電車時刻表』2007年4月5日ダイヤ改正号(東急電鉄サイト「ニュースリリース」より)

発行費用はどうしたのかと思ったが、東急電鉄は06年から無料配布していた『東急電車時刻表』を、「パソコンや携帯電話等の普及により、時刻表への需要が減少傾向にあること」を理由に、12年3月17日ダイヤ改正分から発行を見送った。この時刻表はB5判250ページ前後あるもので、これを原資にしたのではないだろうか。大きな改正のときは30万部配布しており、東急電鉄の気前のよさに驚いた人も多いだろう。私も何回かもらったが、通勤電車の時刻表を冊子でもらっても、鉄道マニア以外は繰り返し見るものではない。この発行をやめ、その費用で広く地震対策をするというのは、賢明な判断だと思う。

鉄道会社にとって時刻表はバイブルだと思うが、そんな環境で「時刻表の代わりに一時避難・帰宅支援マップを配りたい」と言った社員は偉い。

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(2012年9月1日追記)

もうとっくに配布終了かと思っていたが、本日、田園都市線「渋谷駅」ハチ公改札の掲示板に配布を知らせるポスターがまだ貼ってあり、シースルー改札内のラックにあったのを確認した。

(2013年9月22日追記)

『東急電車時刻表』2013年3月16日ダイヤ改正号

『東急電車時刻表』2013年3月16日ダイヤ改正号(東急電鉄サイト「ニュースリリース」より)

『東急電車時刻表』は、2013年3月16日ダイヤ改正号から有料販売に戻された。東横線の東京メトロ副都心線相互直通運転が始まり、時刻表自体は発行すべきと判断されたのだろう。「震災時安全ハンドブック」は、2013年改定版が13年6月25日から無料配布されている。