「星のや 軽井沢」に続いて、「星のや 京都」を利用した。老舗旅館だった「嵐峡館」(2007年休業)をリノベーションしたもので、保津峡を専用船で進む写真に憧れる人も多いだろう。閉ざされた場所だけに、ガイドブックを読んだり、嵯峨野・嵐山を訪れているだけではわからないことがいくつもある。ここでは、私が2015年1月に泊まって実感したポイントをまとめておく。
- 京都観光より宿泊自体を目的にしないと厳しい
「星のや 軽井沢」に代表される星野リゾート最大の魅力は、その豊富なアクティビティにある。軽井沢でも「星野エリア」だけで完結するアクティビティが盛りだくさんで、エリアから一歩も出ずに長期滞在したいと思ったほどだ。
これに対し、京都は街全体がアクティビティにあふれ、もし観光をメインに考えているのなら、宿は寝るだけで構わない。「星のや 京都」が用意したアクティビティもあるが、それに頼る必要がないほど、京都はいくらでもイベントがある。このため、なんのために「星のや 軽井沢」に泊まるかはよく考えたほうがよい。人生の記念日など明確な目的があればいいが、そうでなければ納得出来ないほど、ここは値が張るラグジュアリーホテルだ。
嵯峨野・嵐山は鉄道駅が3つあるが(JR、阪急、嵐電)、ロケーションとしては京都の端で、移動に便利とは言えない。京都でほかに観光したい場所があるのなら、中心部のホテルを拠点にして、地下鉄、バス、タクシーで動き回ったほうがよい。
京都には、昔からアクティビティ付きでコストパフォーマンスの高い宿泊プランを提供している「京都ブライトンホテル」がある。私も普段はここが定宿だ。例えば、夏の定番アクティビティである鵜飼舟のプランを比較してみよう。
鵜飼舟プラン比較(2017年8月11日現在) 星のや 京都 京都ブライトンホテル プラン 「夕食付プライベート鵜飼舟」 「京都嵐山鵜飼見物宿泊プラン」 内容 貸切(1日1組限定) 相乗り 夕食 先付・八寸を舟内で、続きをダイニングで 「旅亭嵐月」個室で 移動手段 宿から直接乗船 往復タクシー 宿泊費 別料金 宿泊料・朝食込み 料金 1人58,300円(税サ別) 1人22,500円~33,000円(税サ込) 貸切で三味線の演奏付きとはいえ、「星のや 京都」はアクティビティだけでこの金額だ。私は「京都ブライトンホテル」のプランを利用したことがあるが、鵜飼が始まるとそちらに集中するので、優雅に舟内で食事する雰囲気ではない。相乗りだと、水上売店船「琴ヶ瀬茶屋」が寄ってきてくれる楽しみもある。
こうして考えると、「星のや 京都」はこの宿に泊まること自体が第一の目的になる。京都の観光が目的なら、違う選択肢がいくらでもあると思う。街全体がアクティビティという点では、東京・大手町にオープンした「星のや 東京」と同じだが、ここは交通至便で観光の拠点に成り得る。その意味でも、「星のや 京都」は客を選ぶ宿だと言えるだろう。
- 嵐山温泉のそばだが温泉はない
このエリアには嵐山温泉と呼ばれる源泉があり、温泉旅館・ホテルも6軒ほどあるが、「星のや 京都」に温泉はない。「嵐峡館」時代は小さな源泉を有し、温泉を提供していたそうだが、湯量の問題か廃止されている。このため大浴場もなく、温泉や風呂が旅の楽しみという人には物足りないかも知れない。
- 接客は担当者の当たり外れが大きい
「星のや 軽井沢」の記事でも書いたが、ここも若いスタッフ中心で、最近のリゾートホテルらしく様々な職種を兼務しているようだ。接客のサービスレベルもスタッフによって差があり、優秀な人に当たった場合とそうでない場合の落差が激しいと感じた。
私の場合、軽井沢宿泊時のアンケートで夕食時のサービスについて指摘したせいか、京都の夕食は非常に優秀なスタッフが担当してくれた。和食の場合、料理の説明で習熟度が伝わるが、このスタッフは食材に関する質問にも即答し、接客態度も申し分なかった。これに対し、隣で接客しているスタッフは客の質問に全く答えられず、適当な言葉でお茶を濁していた。
「星のや 京都」は星野リゾートの中でも高額なので、星野リゾート初心者の場合は期待とのギャップが激しすぎるかも知れない。他の星野リゾートを経験し、その接客レベルを知った上からでも遅くないと思うし、自分自身も納得出来るのではないだろうか。
- バーのメニューに期待してはいけない
私は京都及び近郊の在住が長く、名所旧跡の類は一通り訪れている。「星のや 京都」に泊まったのは、純粋に宿自体に興味があったことと、スケジュール的に正月しか行けなかったため、食事も宿で取るしかなく、ハイシーズンでも納得感があったからだ。特に楽しみにしていたのが、「Salon and Bar 蔵」があるということ。高いルームサービスしかない「星のや 軽井沢」で懲りていたので、このバーが旅のクライマックスになるはずだった。
古くからの蔵をリノベーションしたもので、雰囲気は申し分ないのだが、様々な職種を兼務する「星のや」なので、やはり専門のバーテンダーはいなかった。若いスタッフがウイスキーとビール(星野リゾートの関連会社「ヤッホーブルーイング」の「よなよなエール」1杯税込972円)を出すだけで、フードメニューもナッツ程度。ここはぜひオリジナルカクテルが欲しかった。ウイスキーは「余市20年」(1杯税込3,024円)など、かなり値が張る。秩父のベンチャーウイスキーが醸造している「イチローズモルト ダブルディスティラーズ」(1杯税込1,080円)が最も手頃だった。メニューが充実していれば、冬の夜長をゆっくり過ごしたかったが、2杯で切り上げた*1 。
1 専用船が出る渡月橋たもとの「上り桟橋」
2 宿側の船着き場を上がると入口が - 専用船以外の交通手段はあるのか
宿の専用船以外の交通手段としては、渡月橋から保津川べりの小道を約1km(約15分)歩けば行ける。付近の山中には自由に鐘がつける大悲閣千光寺もあり、足を運ぶ観光客もいないわけではないが、対岸の嵯峨野のにぎわいとは無縁の場所で、暗くなるとタクシーにしたほうがよいだろう。聞くと、スタッフは市内からバイクや自転車で通っているそうだ。
- 観光客が多すぎる
最後に、京都の観光客が非常に増えていることを挙げておきたい。かつては真冬の嵯峨野は閑散としていたものだが、いまや季節を問わず観光客であふれている。特に外国人観光客が加速度的に増えている。あまりの混雑でバスに乗れない事態になっており、京都市は来年3月から「市バス・京都バス一日乗車券カード」を18年ぶりに値上げして、地下鉄へ誘導を図るという。
産経WEST「観光客増えすぎて…京都市「バス1日乗車券」を500円→600円へ 地下鉄は逆に300円値下げして1日900円 来年3月」
インバウンド収入が増えるのは悪いことではないが、私たちが憧れる京都の風情とは異なるものになってきているのも事実だ。誰もいない竹林を歩くなど、写真のイメージだけで想像をふくらませると失望することもあるので、京都自体に過剰な期待を抱かないことが重要だ。修学旅行だけに頼っていた時代とは隔世の感がある。京都はそういう場所という割り切りが必要になっている。
- 価格は宿泊当時のもの。 [↩]