現代アートの聖地として注目されている香川県・直島。中でも美術館とホテルの機能が複合した、世界でも類稀な施設であるベネッセハウスに一度は泊まりたいと考えている方も多いだろう。だが、ガイドブックを読んだり、日帰りで島や美術館を訪れているだけではわからないことがいくつもある。ここでは、私が2012年1月に泊まって実感したポイントをまとめておく。
- 泊まるなら絶対にオーバル、空いていたらまずは予約を
ベネッセハウスにはミュージアム、オーバル、パーク、ビーチの4棟があるが、ビーチは浜辺の宿泊専用施設で、美術館(ベネッセハウスミュージアム)とは直接つながっていない。各部屋に作品が展示され、その部屋に泊まらないと鑑賞出来ない点は同じだが、コンセプトがちょっと違う。料金も全室スイートルームで高い。
パークは杉本博司作品を中心に複数のアートスペースが設けられ、基本的に宿泊者しか鑑賞出来ないが、ここはミュージアムとオーバルの宿泊者も入ることが出来る。ミュージアムは一般公開している美術館と同じ建物なので、美術館に泊まるというコンセプトに最も近いが、さらにオススメはミュージアムからモノレールでしか行けないオーバルだ。
1 オーバル専用モノレール乗り場へのドア
2 オーバル側乗り場へ近づく専用モノレール
3 丘の中を進む専用モノレール
4 相手側乗り場にいる場合は、ボタンで呼び出すオーバルは楕円形の人工池を囲んだ丘の上の建物で、安藤忠雄設計の建築物自体が最大の作品という考えに沿えば、これを体験しないでベネッセハウスを語ることは出来ないだろう。モノレールはオーバル宿泊者専用で、オーバル宿泊者しか建築物を見られないというのが、他の棟と決定的に違うところだ。1995年完成で、06年完成のパークやビーチに比べると古いが、水回りは最新のものになっていた。
スイート以外にツインもあり、料金もミュージアムのデラックスツインと同じで、エキストラベッドを入れて3名にすると、1名あたりではパークのツインと変わらなくなる。ハイシーズンの3名利用ならパークよりオーバルのほうが安いぐらいだ。
予約は半年前から公式サイトで可能で、キャンセル料は利用の8日前までかからない。このため、まずは半年前に予約を入れてしまうことだ。日程が確定していないなら、複数予約してあとからキャンセルすればいい。なお、ミュージアムとオーバルは小学生未満は不可なので注意を。
ベネッセハウスの宿泊棟比較(2012年4月11日現在) 名称 他の棟からの鑑賞 建築物自体の鑑賞 ツイン1名あたりの料金 ミュージアム 可能 可能 通常17,500円
ハイシーズン20,000円オーバル 展示室なし 宿泊者専用モノレールでしか行けない 通常20,000円
ハイシーズン22,500円
(3名利用時)
通常22,500円
ハイシーズン16,667円パーク 可能 可能 通常15,000円
ハイシーズン17,500円ビーチ 展示室なし 可能 スイートのみ オーバルは、宿泊者以外でもミュージアムショップで販売していたポスターを買えば見学出来たり(「勝手に直島親善大使のブログ」)、ミュージアム宿泊者もモノレールを利用出来た時代があったが、現在はオーバル客室のキーがないと乗り場へのドアが開かない仕組みだ。
- どうやってギャラリーツアーに参加するか
このエリアにあるベネッセハウスミュージアム、地中美術館、李禹煥美術館では、それぞれギャラリーツアーや特別なプログラムを用意している。地中美術館と李禹煥美術館は宿泊者も有料で特に融通も利かないので、まずはこちらを優先に予定を立てるとよい。特に地中美術館の「ナイトプログラム」は人気で、満員で宿泊者も参加出来ないことがあるため、実施日に宿泊する場合はまずこれを予約すべきだろう。
これに対し、ベネッセハウスミュージアムはベネッセハウスと同一なので、宿泊者は無料で「ベネッセハウスミュージアム ギャラリーツアー」に参加出来るほか、宿泊者専用の回もある。パークでは「ベネッセハウスパーク アートツアー」もある。一般にも11年11月~12月に期間限定で公開されていたが、現在は宿泊者のみ対象となっている。
宿泊する棟は関係ないので、オーバルに宿泊したら「ベネッセハウスパーク アートツアー」もぜひ参加したい。だが、他のツアーや食事の予約時間と重なってしまう場合はどうしたらよいか。実は宿泊者が頼めば、スタッフの都合がつく限り、時間をずらしてプライベートツアーをしてくれるのだ。
最近のリゾートホテルというのは、スタッフが様々な職種をこなし、業務全体を理解してサービス向上に努めている。昼にフロントに立っていた人が、夜はレストランで配膳をしていることもめずらしくない。同じように、ベネッセハウスでは作品の案内もスタッフがこなしてしまうのだ。美術館と言えば学芸員だが、ベネッセハウスは企画展を開催するのではなく、収蔵品の常設展だけだし、作品も作家が直島に長期滞在して制作したサイトスペシフィックワークが多いため、スタッフが制作時のエピソードも踏まえて巧みに解説してくれる。こうした環境のため、手すきのスタッフがいれば対応可能なのだ。
私自身も本来予定のない時間帯にプライベートツアーをしてもらったし、ミュージアム閉館後の遅い時間に案内をしてもらっている人を目撃した(閉館後も宿泊者は消灯時間まで鑑賞可能)。ツアーの人数が増えると、館内移動だけで時間が取られ、案内出来る作品も限られる。宿泊者だけの特権として、初めて泊まるならプライベートツアーをお願いしてみるといい。
- オーバル内の「オーバルバー」は営業しているのか
オーバルには、宿泊者専用のバー「オーバルバー」がある。わずか6室のためだけに設けられた贅沢なバーで、ここが利用出来るのも宿泊者の魅力の一つだろう。だが、ここは数年前に終了したとのことで、公式サイトにも載っていない。昨年問い合わせ窓口に尋ねたときにも、そう言われた。
しかし、12年1月に私が宿泊したときはちゃんと営業していたし、「食べログ」にも2月中旬の営業が紹介されている。私が利用したときは、昼間ミュージアムカフェで働いていたスタッフたちが仕切っていた。カクテル1杯1,000円前後(「食べログ」にはサービス料がないと書いているが、実際には10%含まれている)で、つまみも揃っている。いつから再開したのかは不明だが、「オーバルバー」があるのとないのとでは全く違う。これから宿泊する人は、最新の状況をしっかり確認しておくべきだろう。私は当日まで終了したと思い込んでいたため、夕食を取りすぎてしまった。営業していると知っていたら、もっとセーブしていたのだが……。
- 島内の移動は宿泊者なら心配無用
直島はベネッセハウス周辺の美術館群以外にも、フェリーが発着する宮浦地区、「家プロジェクト」の本村地区があり、移動はバスが中心になる。地中美術館は山の上にあるため、ベネッセハウスのエリア内であっても徒歩はつらい。ミュージアムとパークのあいだも、夜は真っ暗だ。
バスはベネッセハウスのエリア手前まで直島町営バス(1回100円)、エリア内は無料のシャトルバスが走っているが、宿泊者はこれに加えて専用送迎バスが宮浦港から地中美術館まで周回している。これが相当の本数あり、途中で自由に乗り降り出来るため、町営バスを一切使わなくても専用送迎バス+シャトルバスで思いどおり動けるはずだ。さらに専用送迎バスは万一満員でも、すぐに臨時のバンを出してくれる。
ベネッセハウスとパークのあいだの夜間の移動も、専用送迎バスの時刻表に19時台まで書かれているが、ミュージアム内の日本料理「一扇」や、パーク隣接のテラスレストラン「海の星」での夕食がもっと遅くなることがある。このときは、離れた棟に戻るためにスタッフがバンを出してくれる。宿泊者が移動を心配することは全くない。