世田谷区は「たまがわ花火大会」中止前に川崎市と真摯に協議したのか


この記事は2011年8月に掲載されたものです。
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毎年8月第3土曜に二子玉川と二子新地付近の多摩川河川敷で開催される多摩川花火大会は、世田谷区と同実行委員会主催の「世田谷区たまがわ花火大会」、川崎市と川崎市観光協会及び高津観光協会主催の「川崎市制記念多摩川花火大会」から構成されている。以前は別々の開催だったが、1994年から同日開催となり、観覧場所によっては二つの大会が同時に楽しめる、この地域最大のイベントとなっている。

2003年は荒天で中止、04年~06年は河川敷改修工事のため世田谷区側が中止になったが、07年から再び同日開催となった。両花火大会の人出は年によって異なるが、ほぼ拮抗している。大井町線沿線の住民にとっては、対岸の川崎市側の花火のほうがよく見えるので、自治体に関係なく一つの花火大会として認識している。実際に、川崎市側を見るために集まる人出の警備のため、川崎市の職員やガードマンが対岸の世田谷区に多数配置されている。

ところが、今年の「第33回世田谷区たまがわ花火大会」は、東日本大震災の影響で世田谷区が5月26日に中止を発表した。理由として、次の2点を挙げている。

(1) 今夏期は、厳しい節電が求められているため、来場者の交通手段である鉄道等の増発が難しい状況であり、来場者の来場・帰宅時に大きな混乱を招くことが予想され、安全確保が困難になること。

(2) 震災による影響により、関係機関から被災地への派遣等が長期化することが見込まれ、会場および駅周辺の雑踏警備に対し、万全な態勢を整えることができないこと。

一方の川崎市は、「第70回川崎市制記念花火大会」の時期をずらし、10月1日に開催することを6月9日発表した。電力需要のピーク期間を避けて節電に配慮し、東北物産展なども併催して被災地の復興支援に役立てるという。打ち上げ総数も例年の約6,000発から約4,000発に縮小する。

ここで疑問を覚えるのが、開催時期をずらすことを含めて、世田谷区は川崎市と事前協議したのかということだ。節電や警備が問題なら、川崎市のように10月開催することで対応可能だと思われる。前述のように、花火大会は打ち上げ場所だけでなく、それが見やすい対岸の人出にも対応が必要だ。世田谷区だけが中止しても、鉄道の増発や広範囲な警備は必要になる。このような自治体にまたがる河川敷の花火大会を、片方だけが中止すること自体おかしいと思う。川崎市の意向など関係ないという、世田谷区の勝手なプライドが背景にあるのではないか。

今年、関係自治体(東京都、江東区、墨田区、台東区、中央区)と住民代表で実行委員会を組織する「第34回隅田川花火大会」が、7月30日から8月27日にずらしただけで開催に踏み切るのと比較すると、もはや一つの自治体だけで判断すべきことではないと思う。多摩川花火大会も一つの大会として、実行委員会を統合する時期ではないだろうか。

世田谷区が挙げた理由は一見正論に見えるが、誰もが思いつく知恵を絞らないお役所の作文に感じてしまう。保坂展人氏が区長になり、花火大会はきっとやってくれるだろうと思っていただけに、残念である。