香川県が本当の「アート県」になるには、坂出人工土地のリノベーションが必要だ


この記事は2014年2月に掲載されたものです。
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「瀬戸内国際芸術祭2010」以来、アートを全面に打ち出すようになった香川県。確かに日本一狭い面積ながら、現代美術館や現代建築が点在し、庵治石に魅せられたイサム・ノグチがアトリエを構えるなど、要素は豊富にある。「瀬戸内国際芸術祭2013」では、「うどん県」だけではなく「アート県」も標榜するようになった。

「こころ動くアート県、香川へ」

「うどん県アートコンペティション2012」1 | 2

1 うどん県・要潤副知事ポスター「こころ動くアート県、香川へ」
2 アート県・川井郁子副知事ポスター「うどん県アートコンペティション2012」

だが、瀬戸内国際芸術祭は主会場が瀬戸内海の島々で、それもベネッセホールディングス関連の企業・財団と、安藤忠雄氏の建築物をメインにした集客になっている。参加アーティストは多いが、やはり直島のベネッセハウスと地中美術館が目玉なのだ。香川県を本当の「アート県」にするためには、島だけではなく、都市部の市街地をもっと変えてほしいと思う。

香川県には、DOCOMOMO(ドコモモ)日本支部が2003年に発表した「DOCOMOMO100選」*1 のうち、3件がある。DOCOMOMO(Documentation and Conservation of buildings,sites and neighbourhoods of the Modern Movement)は1988年に設立された国際学術組織で、「モダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録調査および保存」を目的としている。

  • 016 香川県庁舎(香川県庁舎東館)/丹下健三/大林組/1958年/香川
  • 080 百十四銀行本店/日建設計/竹中工務店/1966年/香川
  • 093 坂出市人工土地/大高正人/鴻池組/1968年/香川*2

このうち香川県庁舎、百十四銀行本店は香川県観光協会「アート県」特設サイト「香川の現代建築とアートマップ」でも紹介されているが、坂出人工土地は記載がない。

坂出人工土地は、建築家・大高正人氏が68年~86年の4期に分けて完成させた約1.24ヘクタールの鉄筋コンクリートによる人工地盤で、下層部は商店街や駐車場、上層部は団地や公園となり、市民ホールも組み込まれている。40年前に設計されたとは思えない斬新な建築物だが、メンテナンスが行き届かず、老朽化ばかりが目立っている。

最も課題なのは、この建築物の価値を地元の人々が認識していないことだろう。私は中学・高校時代が香川で、坂出人工土地もよく知っている。商店街や市民ホールを利用したこともある。そのときは「人工土地」というネーミングが大げさに聞こえ、単なる複合施設としか思わなかったが、全国で先駆けとなった建築物であることを後年知った。高知市の沢田マンションが有名になるなら、坂出人工土地もリノベーションすれば注目を集めると思う。大都市にこのような建築物があれば、きっと最先端のスポットになっているだろう。建築物データベース「建築マップ」にも同じことが書かれている。

先ほど文化財だと書いたが、現状のまま手を加えずに保存するべきではなくて、むしろ人工土地の枠内でスクラップ&ビルドをするのが本来の使い方なので良いと思う。具体的に言うと、空室に関してはリノベーションを施すか部分的に建て直したり増築したりして上層にも店舗を入れる。チャレンジショップ的な用途を想定して賃料を低く抑えたり、入居者の改造を許可するのもよいだろう(公共主体の手を離れることが必要かもしれない)。さらにギャラリー、ホテル等を入れてもいい。集会施設としては既存の市民ホール(photo#7)があるし、滞留スペース、路地的空間も既にある。上手く活用していけば福岡の大名地区のように人を引きつける商業エリアに育ってくれるかもしれない。周辺にメガシティがないから集客には限界があるだろうが、何としても蘇らせたい事例である。

若いアーティストのためのアトリエ、東京で例えるならCLASKAのようなクリエイティブセンターに出来ないだろうか。近くに位置する香川県立坂出高等学校は公立高校ではめずらしい音楽科を持ち、音楽関連の施設も市民の理解を得やすいだろう。日照時間の長い香川県は映画のロケーションに適しており、その滞在施設にすることも出来る。

アートが生活に根差したものではなく、市街地から離れた島々や、市民が素通りする美術館の中だけで完結している状態では、とても「アート県」とは呼べない。街が従前から持つポテンシャルに気づき、それを現在に伝えることが重要だと思う。さぬきうどんがブームになるなんて、誰も思わなかったのと同じである。坂出市人工土地のような現代建築の傑作が普段使いの商店街使われてこそ、本当の「アート県」になれると思う。

昨年は、夏に坂出人工土地の構想段階の木製模型が見つかった。11月には坂出人工土地の耐震性が不足していることがわかり、耐震改修を柱に中心市街地活性化に寄与する再整備を検討するとのニュースがあった。坂出市の若手職員によるプロジェクトチームが人工土地の再生案を検討しているらしい。これは期待したい。香川県も、街を甦らせるこうした事業に補助金を出すべきだと思う。

朝日新聞デジタル「坂出人工土地最古の模型見つかる 香川、半世紀前製作」

建設通信新聞「坂出の『空中都市』再生/青木繁で基本計画/耐震改修し活性化」

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  1. 1999年に20件、2003年に80件が選定され、ここまでを「DOCOMOMO100選」と呼ぶ。その後追加され、09年に150選となった。 []
  2. DOCOMOMO以外は「坂出人工土地」の記載が多い。本記事も「坂出人工土地」と表記する。 []